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岩波美和:最初のアフレコするまで、僕もどうなるんだろうなって。

上田耀司:僕もそう思いました。キャスト発表で名前が挙がってくるポジションにいるっていうのが初めてだったので。

岩波:みんな楽しみもありつつ不安もありつつ、みたいな感じで。でもやっぱり一声聴いて「あ~スピードワゴンだ」って。「ああ、いたいた」みんな納得。

上田:嬉しいですねえ、そんなお話を聞けて。

岩波:このラジオを聴いている皆さんもね、そう思われたと思うんですよ。スピードワゴンさん大人気だもんね。


上田:でも、スピードワゴンのキャラクターの元々の人気が凄いんですよ。

岩波:うんうん。

上田:この役が決まってから、こっそりジャンプショップへ行ったんですけど、第一部のグッズってあんまり無いんですよね。

岩波:そうそう。

上田:キャラクターとか名言とかのピンズがあったんですけど、第一部のスピードワゴンだけ完全に売り切れだったんですよ。

岩波:はっはっは(笑)

上田:「えっ…俺、これ演るの?」と(笑)凄いプレッシャーを受けて。台詞も一人歩きするくらいのキャラで。

岩波:難しいんですよ、スピードワゴン。ジョジョ全体がそうなんですけど。言い回しが独特ですし、スピードワゴンの台詞を着地させるのって…文字で見るとそうでもないんだけど、音にすると、めっちゃ難しいですよあれ。

上田:まぁ、そうですね。

岩波:だって「ゲロ以下の臭いがプンプンするぜぇーッ!」つってさ、そうそう言いきれる人はいない。

上田:(笑)

岩波:「スピードワゴンはクールに去るぜ」、これ自分で言い切るっていうのはさ。声優さんて凄いなって毎回思うもん。

上田:でも一人じゃできないですね、なかなか。だからその場にあるいろんなものをいただいて。
「クールに去るぜ」なんて完璧にそうでしたよ。ある程度自分でイメージはあったんですけど、その前のシーンを受けてでないと絶対言えない台詞だなと思っていたので。

岩波:そのへんもサッカーと一緒なんですよね。相手の演技のパスを受けて、じゃあ俺はこういう風に次に繋げるパスを出すっていう。
日本のアニメのアフレコってそこが面白いところでね。出演者みなさんで、よーいドンで一つの空間で演技をする。お互いの演技を聴きつつ、アクション、リアクションして、演劇的な空間が出来上がる。それが日本のアニメの面白さの要因の一つで、ジョジョなんか本当に顕著に。

上田:そうですね。

岩波:しかもみんなキラーパスばっかり出すからね。

上田:はっはっは(笑)

岩波:ビュンッビュン、出すじゃないですか。落ち着いて喋れよっていうナレーションの大川さんが、煽る煽る。

上田:そうでしたね(笑)

岩波:「意外ッ!それは髪の毛ッ!」…そんなに張らなくたって(笑)

上田:それがハマっちゃうっていうのが凄いところなんですよね、この作品。

岩波:作品の持ってる尋常ならざる熱、みたいなものを音にするには、あのぐらいのテンションを込めないと伝わりきらないんじゃないかっていうのがありますね。

上田:今回、できるだけ原作のテイストを再現しようっていう方針があったじゃないですか。普通にサラッと言ったらこれ、(画面の絵に)負けちゃうなって。

岩波:そうなんですよね。こないだも子安くんと話したんだけど、「あれだけバンバンに張ってたのに、テレビで見ると全然そんな感じしないよね」「いや、それは皆張ってるからだよ」って。

上田:そうそう(笑)

岩波:特に第一部なんですけど、独特の言い回し…日本語としてはちょっと間違ってるんじゃないのか?みたいな。

上田:はい(笑)

岩波:でもあれも一つの作品の魅力だし。よくアフレコ現場で言ったのは「~じゃあない」の大きな「あ」が入るんですよね。普通なら、せいぜい小さい「ぁ」が入る。

上田:はい。

岩波:あれも独特のテンポ感がある。やってみてわかったんですけども。音にするとこう、タンタンタンタンタン(※ここで岩波さん手を叩く、一定のリズム)って普通の台詞が「あ」が入ることによってタンタンタンタンタン(※波のあるリズム)みたいな。

上田:ほぉー。

岩波:あと、「~だァーッ!!!」こう、クレッシェンドみたいな。タンタンタンタンタン!!みたいな。

上田:時代劇の様式美みたいな台詞まわしがあるじゃないですか。それがちょっと近いんじゃないかって。

岩波:近いですね。音に出してテンポに乗せやすい。乗せやすくなかったですか?難しいけど。

上田:流れを掴むのは大事だなと思いました。ベラベラベラーっと喋るので、ともすれば単調になってしまって、ただうるさいだけになってしまう。

岩波:我々で言うところの「流れちゃう」。台詞が流れちゃうっていうのですね。
どこにアクセントをつけるのかとか、どこに感情の起伏を持っていくのかとか、そういう楔(くさび)の入れ方みたいなのが、作りやすい台詞回しなんですよね。

上田:確かにそうでした。

岩波:それはおそらく、荒木先生も音楽お好きで、リズム感みたいなのを台詞に込めたかったんじゃないかって…勝手な想像ですけども。やってみてわかりました。
逆に台詞を収録するとき、最後に仕上げをするときにもテンポ感、リズム感みたいなものを大事にして。簡単に言っちゃえば「ノリがよく」。

上田:ほー。

岩波:テレビつけて、番組始まって、エンディングが始まるまで息をもつかせぬ、みたいなね。



上田:みんな「あっという間に30分が過ぎる」って言ってました。

岩波:もちろん、映像のテンポも何冊分かをギュッと凝縮していて速い。第1部も9話に収めて。テンポも速かったんですけど、よりさらにドライブ感が出るように心がけました。

上田:ほー。

岩波:作り自体が当時で言う劇画調、みたいな…あるじゃないですか、ものすごく短い瞬間、出来事を「これパンチ構えてから出すまでに、スピードワゴンさん何行喋るんだ?」みたいな。

上田:(笑)

岩波:時間をぎゅーっと伸ばして。劇画ではよくあってね。星飛馬が一騎打ち、投げるまでに何分かけるんだ?みたいな。

上田:昔はありましたよね。

岩波:今はあまりないですよね。あれをチンタラやっちゃうと間抜けになっちゃうんで。畳みかけるしかないんですよ。
ずっとリズムに乗ってテンポに乗って、バーッと。それで一息ついたら、またバーッて。

上田:実際にはありえない長さなんだけど、その疾走感だけは、見てる人に感じてもらわないといけないっていうのはありますよね。

岩波:ドライブ感、疾走感みたいなものは感じさせなきゃいけない。そういうのはすごく気をつけて作りました。

上田:最初からそれは、いろんなことを思っていらっしゃったんですか。

岩波:そうですね。絵を見ればわかると思うんだけど、変な話、これはそんなに動かして見せるアニメじゃないなと。
原作の一コマのインパクトが物凄いし。第一部、第二部よりも第三部、第四部になってくると段々洗練されてくる、ちょっとアートっぽい方になっていきますけど。
やっぱり第一部・第二部って、なんていうんですかね…ゴツンとしたこう、熱みたいなものを一枚の絵に込めてるタイプの作品だから。そんなに動かせるものではないな、と。パッと見ね。

上田:そうですね。

岩波:アクションで見せる作品ではない。でも、そこにある熱みたいなものを確実に伝えないと、きっと受け入れてもらえないだろうなと。
とにかく、熱をどうやったら込められるのかっていう。そこだけはちょっと、プライオリティだったかな。


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